MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

農家と市民が創る都市農家の在り方(三鷹市、武蔵野市・まちなか農家プロジェクト)

 東京都三鷹市と隣接する武蔵野市は、都内でも農地が多く残っている地域の一つです。しかし、その地域住民の多くは自分の住んでいるすぐ傍に農家さんが多くいることをあまり知らないといいます。地域社会にとって重要な存在の一つである農家さんをもっと多くの地元住民に知ってもらうためにどの様にすればよいのでしょうか?今回は三鷹市と武蔵野市の農家さんを応援するために様々な取り組みをされている「まちなか農家プロジェクト」(以下プロジェクト)の方々に取材に伺ってきました。

より一層身近な存在へ

 住宅街や商店街のすぐそばで農業を行っている都市農家ですが、その認知度は低いという状態が長く続いていました。このプロジェクトを立ち上げたメンバーの一人で、三鷹市が地元の苔口昭一さんも昔は自分の身近に農家がいることをあまり意識していなかったそうです。

 苔口さんは三鷹市の駅前や商店街をIT技術で活性化する取り組みをされてきました。その活動の一環で市民とITをコラボレーションしたワークショップに参加した時に初めて地元の農業について詳しく知る機会を得たといいます。その時に農家さんから「地元に農業があることをもっと多くの地元住民に知って欲しい」という声を聞き、ITの力で何か農業支援ができるのではないかと考えワークショップの他の参加者と共にアイデアを深掘りしていきました。そこで行き着いたのが「情報発信」。まずは農家さんがやっている活動を周りに知ってもらい、知名度を上げることに焦点を置いたのです。

まちなか農家のロゴ

様々な方法で情報発信を

 このプロジェクトでは実に様々な方法で農家さんの情報発信に取り組んでいます。プロジェクトが運営しているホームページ上には三鷹市、武蔵野市の各農家さんを訪れて取材をした時のインタビュー記事が掲載されています。記事は、農家さんの野菜の栽培方法や、農家さんを取り巻く環境を写真や分かりやすい図を交えた対談形式で書かれており、農家さんのリアルがひしひしと伝わってきます。

 他にも三鷹市や武蔵野市で地域イベントを開いたり、会員制ファンクラブやFacebook上でコミュニティを作ったりなど発信方法は実に多様です。地域イベントを開いた例としては、農業と防災を関連付けたイベントがあります。親子参加型のイベントで、実際に畑に訪れてビニールハウスで暖をとったり、畑から採れた野菜を使用して炊き出したりするなど、畑や農家の存在が地域の防災にとっていかに重要であるかを伝える内容でした。

収穫の説明を聞く親子
ビニールハウスで暖をとる親子

 会員制ファンクラブは、月に一度農家さんが厳選した野菜を三鷹駅前で1回1300円の価格で販売するというコンテンツになっており、既にリピーターもいるほどだそうです。ユニークな発信方法としては、三鷹市に本拠地を置くサッカーJ1のFC東京の地元の後援会と一緒にサッカーの試合前に三鷹市の農家さんが収穫した野菜を販売したり、歌やグッズを作ったりしました。2017年から毎年続けている活動で、三鷹市内の国際基督教大学の学生と連携し、地元農作物を使ったブルーベリードリンクを開発し、駅前のカフェや大学の文化祭で販売することで、新たな形で地元の都市農業を発信しています。

地元のフルーツを用いたドリンク

農家さんの「個性」を伝える

 このプロジェクトでは、上記の様に既存の発信方法にとらわれず、様々な方法で農家さんの情報を発信しています。農家さんの情報発信をする上で一番大切にしていることは、「消費者視点での発信」を心がけることです。農家さんに限らず、ある物事を他の人に情報発信をして、理解してもらうことは難しいことであり、一工夫が必要です。ただ単に農家さんが生産している野菜について発信するのではなく、就農の経緯といった各農家さんのサイドストーリーや、消防団や自治会の役員など地域社会にとって欠かせない仕事の多くも農家さんが担い続けてきていることなど、農業とは直接関係ない部分も発信します。それによって、各農家さんの個性を地元住民も含めた多くの人々が知るようになるでしょう。

 つまり、農業自体に最初から興味を持ってもらうのではなく、「この農家さんがつくる野菜が欲しい!」というように、農家さん自身に興味を持ってもらうことを最も大切にしています。農家さんの畑仕事以外の部分で価値を高めていくことが、その後の農家という職業の在り方に対しても良い変化が起きることでしょう。

様々なフィードバック

 このプロジェクトを進めていく中で農家さんからは様々な反応がありました。特に反応が多かったのは農家さんと地元住民など消費者との接点が増えてきたということです。プロジェクトのメンバーと農家さんがイベント運営を行ったり、援農ボランティアなどで畑に様々な人たちが訪れたりするようになるにつれて、農家さんに興味をもってくれる人が増えてきました。畑から出られない分、このような市民による活動が農家さんにとってとても助かる支えになっているのです。

 地域住民からの反応で特に良かったものが畑の良さについての反応です。実際に農家さんの畑に訪れた人からは、「土の匂いが良い・畑ってどこか落ち着く・空が見えて良い」などの反応がありました。これらの反応は、自然が身近にある生活環境を求めている人たちが徐々に増えてきていることの一つの証ではないでしょうか。これからの都市農家の在り方は、私たちの暮らしにとってより一層大切な存在になっていくことでしょう。

まちなか農家プロジェクト プロフィール

小辻 龍郎

アグリドットトーキョー編集部。元々農業とはあまり縁がない生活をしていました。農業や食、自然の分野で世の中をより良くしていきたいと思い、大学に入学してから農業サークルなど農業に関する様々な活動に取り組んでいます。都市農業を通じて農業の現場や課題が身に染みて実感中。最近ハマった野菜はトウモロコシ。

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