MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

【調布市・山内ぶどう園】デザインする農業~山内さんの挑戦~

「デザイナーと農業は根本の部分では共通点があるのです。」と、今回取材に伺った山内ぶどう園を経営する山内美香さんはおっしゃいました。デザイナーの仕事から農家に転身した山内さんは、どのような考えで農業に取り組んでいるのでしょうか。

デザイナーの経験を活かした「イベント型」農園

山内ぶどう園は、新宿から京王線で15分、東京都調布市の仙川駅から歩いて約10分の場所にあります。1500坪(約0.5ha)の面積がある畑には農園の目玉とも言えるぶどう畑や、大根やニンジンなど約100種類もの野菜を育てている畑や温室があります。約400年前から農家として続いており、山内さんで20代目です。最初からぶどうを中心に栽培していたのではなく、戦後しばらくは酪農を営んでいました。しかし、山内さんのお祖父様がご高齢になったことと、周辺の宅地化が進んだことから、約30年前に酪農を辞め、親族の経営していたぶどう園を参考にぶどう園を始めたそうです。

ぶどう畑。シーズンにはこの棚にぶどうがたわわに実ります。

代々農家という環境で育ってきた山内さんですが、最初から農業に対して興味を持っていたわけではありませんでした。高校卒業後は芸術系の大学に進学、社会人になってからの数年間は大阪でデザイナーの仕事をしていたそうです。

しかし、「農家の跡取り娘」として、いつかは農家を継ぐのだろうという意識もあり、10年ほど前、お父様が亡くなられたことをきっかけに山内ぶどう園を継ぎました。ただ、当時、山内さんはただ単にぶどう狩りを開催するだけという従来の方法に将来性を感じなかったといいます。

転機となったのは、3~4年前に参加した「農業女子プロジェクト」でした。農林水産省主催で女性農業者の情報発信を行っているこのプロジェクトには、多数の企業が参加しており、体験型旅行予約プラットフォームの「TABICA」もその一つでした。当時、「TABICA」は都内でイベントを積極的に行ってくれる農家を探していました。一方で、山内さんも従来の経営スタイルから脱却し、大学時代に学んだことやデザイナーの仕事で培った経験を農業でも活かしていきたいと考えていました。そこで、「TABICA」と連携し、山内ぶどう園をイベント中心の経営に変えていくことになったそうです。

季節感を楽しめる、ここでしかできない体験

山内ぶどう園では、季節の移り変わりを楽しめる、農園ならではのイベントを開催しています。イベントを行う日は毎週日曜日と第1,3土曜日で、第2土曜日と第4土曜日は祝日と重なっていてもお休みとなります。例えば月曜日が祝日の場合は日曜日と月曜日(祝日)を開催します。イベントは季節ごとに特色のある内容になっており、秋には農園で栽培された採れたてのフルーツを用いたピザを作ったり、冬の年末年始にはお餅つきをして農園で採った大根を使った大根おろしを添えたりと様々です。

農園を訪れるお客さんは地元の方々よりも、都心部に住んでいる子連れの家族が多いそうです。その理由としては、都心部では自然と触れ合う環境がなかなか無いことや、イベントの内容が子供と家族が一緒に楽しめる内容になっているものが多いからと山内さんはおっしゃっていました。TABICAのホームページにも山内ぶどう園の紹介やイベントスケジュールが詳しく掲載されているので、そちらも是非ご覧になってみてください。

秋に行われたナイトイベント。いちじくを使ったフルーツピザをピザ窯で焼き上げました。

体験に参加するお客さんの多くは、TABICAやSNSなどインターネット経由か、今までに参加したお客さんの口コミによって訪れているそうです。そのこともあり、山内さんはSNS上での発信を欠かさずに行っています。主に利用しているのはFacebookで、最近はInstagramも始めたといいます。SNSでお客さんが写った写真を配信する際は、プライバシー保護の観点から、投稿して良いかどうかを本人に必ず確認しているそうです。また、Facebookの投稿をきっかけにメディアの取材の問い合わせを受けることも多く、過去にはモヤモヤさまぁ~ずやヒルナンデスといった有名番組にも取り上げられたことがあるそうです。

イベントに適した野菜栽培への切り替え

山内ぶどう園では、野菜や果樹の育て方もイベントを行うのに適したものにしています。冒頭でも紹介した通り山内さんは約100種類もの野菜を育てています。その理由としてはお客さんが出来るだけ多くの種類の野菜を収穫できるようにするためです。大根や白菜等の大きい野菜だけでなく、ラディッシュやコカブといった小さいお子様にとって収穫しやすい野菜も栽培しています。ぶどうに関しては、この農園でしか食べられない品種を育てて山内ぶどう園を特徴付けたいという山内さんの考えから、流行りの品種だけでなく、東京発祥の品種である「高尾」や「多摩豊」と呼ばれるぶどうの品種も育てています。

山内ぶどう園では、「農業サークルぽてと」の大学生もボランティアとして活動。

ただし、体験や収穫イベントに向けて農園全体を運営することには難しさもあります。第一に農園を手伝ってくれている人手の確保です。現在は子育て中の若い主婦の方がボランティアとして手伝ってくれています。 第二に、子連れの家族が多いので運動会や発表会が重なるとお客様の予約が入りにくくなることや、天候不順になるとイベント自体が開催できなくなることが挙げられます。

山内さんが挑戦する、新たな都市農業

山内ぶどう園が位置する調布市は、都心から最も近い場所で農地が残っている地域、言い換えれば都市農業の生き残りラインです。山内さんの周囲の農家さんのなかには、自分の代で農業は辞めるつもりだという方も多いそうです。相続が生じたときなどに、農地を宅地として売って手放してしまうことは簡単なのです。反対に、都市化の流れに逆らって農地を残していくことには様々な困難が伴います。

この日もボランティアの方々が活躍されていました。

このような環境のなかで、それでも農業を続けていくにあたって、山内さんは「今までとは違うやり方で農業を行えば稼げるということ自分の代で示したい」という決意を持っています。実家の農園を継いで、「何かを生み出す」という観点でデザイナーと農業が根本の部分で共通点を持っていたことを見出した山内さんならではの目標です。この記事をお読みの皆さんも、ワクワクするような気付きや自然と触れ合うことの大切さを、山内ぶどう園で是非体験してみではいかがでしょうか。

ビニールハウスの中で、たくさんのお話を伺うことができました。
農園に実っていた柿。何種類ものフルーツも自慢です。
山内ぶどう園へお越しの際は、このかわいい看板が目印です。
山内さんの二人のお子さんは、元気に動き回ってイベントの参加者にも大人気。

山内ぶどう園 プロフィール

小辻 龍郎

アグリドットトーキョー編集部。元々農業とはあまり縁がない生活をしていました。農業や食、自然の分野で世の中をより良くしていきたいと思い、大学に入学してから農業サークルなど農業に関する様々な活動に取り組んでいます。都市農業を通じて農業の現場や課題が身に染みて実感中。最近ハマった野菜はトウモロコシ。

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