MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

「農」でまちを育てよう〜みんなの畑〜(西東京市・ノウマチ)

 みなさんは「サードプレイス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?サードプレイスは,アメリカの社会学者であるRay Oldenburg(1989)が提唱した概念です。Oldenburgによれば,サードプレイスはファースト・プレイス(自宅)やセカンド・プレイス(職場や学校)以外で居心地よく過ごすことができる場のことを指します。そして、Oldenburgは,このサードプレイスが地域社会の拠点として機能し、コミュニティー形成に寄与してきたと述べています。

 現在、日本においてコミュニケーションに対する抵抗を感じる人々の増加を背景に、地域コミュニティーの希薄化が問題となっています。また、少子高齢化に伴い人口減少が進む中で、ファースト・プレイスやセカンド・プレイスの余剰が懸念されています。そのような中、多様な人々が集まるサード・プレイスに地域活性化の核としての期待が高まっており、各地でこのような場を作り出す活動がなされています。

住宅街の一角にあるみんなの畑

「農」で「まち」を育てる

 東京都西東京市の住宅街の一角に、農業をサードプレイスと位置づけ,コミュニティー形成・居場所作りを実践しているノウマチの「みんなの畑」があります。今回は、ノウマチの事務局長である若尾健太郎さんとみんなの畑のメンバーの方々にお話を伺ってきました。

 ノウマチとは、「農」をツールとし自分たちの「まち」を育てる西東京農地保全協議会の通称です。今回お話を聞かせていただいた若尾さんは普段、西東京市も含めた地方の過疎高齢化を支援するNPOの支援や町おこしをしているコンサルタントとして活躍する傍ら、ノウマチの事務局長をされています。若尾さんは、青年海外協力隊で農村の農業支援に携わっていたことがあり、その際に農業・農村が人間のコミュニティーの原点の形であると感じたといいます。これをきっかけに、食料自給率の低下などにより現在注目を集めている「農」、誰もが興味関心を持つであろう「食」、そして農をベースとした「コミュニティー形成」を1つにしたいと考えました。そこで2013年、同じような考えを持ち現在会長を務めている岩崎智之さんとともに「ノウマチ」を設立しました。

若尾さんが熱心にお話を聞かせてくれました

みんなの畑

 ノウマチでは自分たちの「まち」づくりに繋がる様々な活動を行なっています。主な活動の1つに「農のあるまちづくりコーディネート」があります。ノウマチでは、高齢者やハンディキャップを持つ方、すべての人々がごちゃまぜになり農体験をする「みんなの畑」を行っています。みんなの畑は区画を区切らず、参加者全員で1つの畑を耕し、タネまき、収穫をする「畑」のサードプレイスです。1つの畑を共同で日々管理することにより、普段なら関わることのない人々が交流し、助け合うコミュニティーづくりの場となっています。毎回畑に来るメンバーは約10人で、デザイナーや農業従事者の協力者を含めると合計20名のメンバーがいます。農業に強い人もいる一方、疎い人もいる。そんなみんなが支え合うコミュニティーができれば、と若尾さんはおっしゃいます。

 ノウマチは「ごちゃまぜ農体験」をコンセプトとしているだけあって、多種多様な方々により支えられています。ノウマチのメンバーの唐澤さん、協力者である野坂さんに,お話を伺いました。唐澤さんは、自他ともに認める大豆マニアであり、東大農場の大豆塾に参加されている際にノウマチを知りました。自分で畑を借りた場合、全ての作業を自分でやらないといけない。しかし、「みんなの畑」では普段あまり話す機会がない人たちや、年齢も異なる人々と相談しながらワイワイ畑作業をすることができる点で本当に素敵な場所であると唐澤さんは言います。一方、野坂さんは練馬の上石神井で農業を営んでおり、もともと若尾さんと知り合いでノウマチの初期段階からみんなの畑に携わっている方です。野坂さん曰く、最近畑は減少傾向にあるが、体験農園などが各所にあり、野菜づくりをしたいと考える人が意外と多いことを感じているということです。また、みんなの畑には堆肥づくりが上手い人や、味噌作りのプロフェッショナルなど色々な特技を持った人々が参加しており、彼ら一人一人の力があってこそ、このみんなの畑で作物を作ることが出来ていると野坂さんは考えます。

話し合いながら作業を進めるメンバーの方々

ノウマチの挑戦

 上記で述べたように、ノウマチの「みんなの畑」はハンディキャップを持つ方、高齢の方、子供、そして大人が分け隔てなく繋がることのできる農園を目指しています。このコンセプトに基づき、「みんなの畑」では障害を持つ方の仕事の場として農園の管理を作業委託という形でお願いしているそうです。知的障害などの社会的なハンディキャップを持った人々が働く場として作業場でのパン作りなど徐々に増えてきてはいるが、体を使うことの方が向いておりパンづくりに不向きな方もいる。そこで、作業所と連携しこのような活動を行っているそうです。

 若尾さんは、日々のメンバーが自主的に「みんなの畑」に携わることにより、やりがいや生きがいに繋がるといいと話します。そして、この畑をツールにし、自分のやりたいことを実現する場にしてほしいそうです。したがって、これからは「子供に味噌作りを教えたい!」などみんなの「ヤリタイコト」を引き出し、実現させたい。そして、もっと多くの人を巻き込んでいきたいとおっしゃっていました。

 このように挑戦的な活動をされているノウマチですが、その反面、この活動はビジネスになりにくいという課題をあげています。経済的な採算を取るためにも、ノウマチによる「農」をツールとしたコミュニティーの創出が町にどれだけ貢献出来たのか数値化したいと若尾さんは話します。そして、ノウマチの活動が社会に貢献し、「農業を始めたい」という人々のニーズに応えることのできる場であることが認知されるようになれることを望んでいます。

みんなの畑で育てられた野菜たち


西東京農地保全協議会(ノウマチ) プロフィール

森 柚香

アグリドットトーキョー編集部。津田塾大学学芸学部英文学科所属。大学入学後、農業とはあまり関わりの無い生活を送っていましたが、「農業サークルぽてと」に入会したことをきっかけに農業に興味を持ちました。趣味はダンスで、大学では「ぽてと」以外にベリーダンス部・ラーメン同好会に所属しています。アグリドットトーキョーでは今までの知識も活かしつつ、新しいことをどんどん吸収していきたいと考えています。

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