MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

大人の田圃−お米でつながる一年−(国立市・くにたちはたけんぼ)

 桜がひらひらと舞い、春の陽気を感じ始めた4月半ばの国立市。谷保天満宮を抜けると、住宅街の中に広大な田畑が広がっています。まだ水のひかれていない広々とした田んぼの中心でNPO法人くにたち農園の会の武藤芳暉さんにお話を伺ってきました。武藤さんはくにたち農園の会が運営する「くにたちはたけんぼ」で開催される「大人の田圃」を企画しています。農業の素晴らしさや田んぼの魅力など興味深い話をたくさんしてくださいました。

広大な田んぼでの取材でした。

NPO法人くにたち農園の会の活動

 NPO法人くにたち農園の会は、東京都国立市で「農のあるまち」「農が身近にある暮らし」を子どもたちにつなぐことを目標にしています。その事業として、2013年に開園した「くにたちはたけんぼ」、2017年に開業した「田畑とつながる子育て古民家つちのこや」、2019年には新たにオープンした「ゲストハウスここたまや」の運営を行っています。

 武藤さんは大学在学中の2012年に国立市谷保に引っ越してきて、2013年にご友人の関係からくにたち農園の会に加わりました。最初は農業に興味があって始めたわけではなく、むしろ家づくりなどに興味を持っていたそうです。その活動の中で、幼児から高齢者まで幅広い世代が関わり、子どもたちが自由に遊べる畑の大らかさに次第に惹かれていったそうです。

 農園の会の活動を通じて、街の子どもたちに知っている顔が増え、お互い助け合って暮らせるようになったという武藤さん。谷保に引っ越してきたときに住み始めたのは風呂なしのアパートでした。そこで、農園の会のメンバーや地域にお住まいの方々のお家でお風呂を借りることも多かったのだとか。くにたち農園の会理事長の小野淳さんや副理事長の菅井さんはじめ、役員の方々は家族のような関係性であり、それでいて自立できる環境だと言います。

 agri.TOKYO編集部では、小野さんにも取材を行いました。こちらも合わせてご覧ください!
 地域コミュニティの場としての都市農業(国立市・くにたちはたけんぼ)

はたけんぼで楽しめる体験

 はたけんぼでは年間を通してたくさんのイベントが開催されています。なかでも2013年から開催している「親子田んぼ体験」は田植え・稲刈り・収穫祭を親子で楽しめるプログラムで、毎年人気を博しています。年々参加者が増えており、今年は100組・350名くらいになる見込みです。農地が減少し続けている東京では、実際に土に触れ自然体験をできる機会が減っているため、子どもたちにとって貴重な体験になるに違いありません。

 はたけんぼを利用しているのは主に地域の方々で、毎回の体験を心待ちにしている方も多いそうです。また、都心からのアクセスが良いため、田んぼ体験などのイベントでは赤坂や麻布十番などの都心から足を運んでくださる方もいらっしゃるそうです。さらに、留学生や海外の方々、ダウン症・特別支援学級の子どもなどが利用することもあるそうです。このように、くにたちはたけんぼは地域と密接に結びつき、利用する人の多様性を重んじたコミュニティスペースになっています。

 取材当日も、親子が元気に遊んでいる様子を目にしました。とても微笑ましい光景であり、筆者も田んぼに囲まれた自由な空間で遊ぶ素晴らしさを実感しました。

谷保の住宅街に広がる田畑 。

大人だからこそできる田圃体験

 武藤さんが中心となり、はたけんぼで今年新たに始まるのが「大人の田圃」です。大人の田圃とは、文字通り大人向けの田圃体験で、種を蒔くところから収穫まで、5月から11月までの全9回のプログラムとなっています。

田んぼの中でどろんこ遊びをする子どもたち。

 なぜ、武藤さんは大人のための田んぼ体験を開催しようと思ったのでしょうか。田んぼ作業は純粋に楽しいので、「大人にこそ来て欲しい!」「大人で田んぼをやりたい!」と思ったからだそうです。武藤さんは、農業塾のような形ではなく、参加者が田んぼでの作業を通じながらコミュニティとして繋がれる場を作ることを目標にしています。

 また、今回の大人の田圃は武藤さん自身の挑戦でもあります。今年の体験ではプログラムの充実に伴って田んぼを拡大することになったため、新たにトラクターでの作業の必要や受入人数が大幅に増加しました。今後は、高齢化した地域の農家さんから田んぼをさらに借りうけることによって、減少しつつある農地を少しでも残したいという想いもあるそうです。また、三重県で農業を営む傍ら有機農業の技術を研究・指導している橋本力男氏から教えてもらった完熟堆肥による栽培をしたいと考えています。取材中も武藤さんの田んぼへの熱い想いがひしひしと伝わってきました。

 田んぼの作業は畑作業よりもしっかり足腰を使い、田植えや稲刈りなどのそれぞれの作業がシンプルでルーチンワークなので没頭しやすいことも特徴です。そして、みんなで共同作業できると同時に自分のペースで夢中になれるという素晴らしさもあります。もちろん田んぼでの作業は教えてくださるので、初めての方でも楽しく作業できます。会員同士で交流しながら、四季の変化・夕陽の変化、体を動かす気持ち良さを感じてみませんか。新たな発見が待っているかもしれません。体験だけでなく、別途懇親会も予定されているそうなので、田んぼ作業の達成感に浸りながら、自然の中で食事やお酒を楽しむのも乙ではないでしょうか。

 詳しく知りたい方、お申込みははたけんぼの公式ページよりお願いします。お申込みの際のアンケートには、「agri.TOKYO」で知ったとお答えください。

種籾
田植え
稲刈り
稲穂
はさがけ

これからのはたけんぼ

 たくさんの方々の憩いの場となっているはたけんぼですが、さらなる発展に向け日々奮闘しています。告知の方法を試行錯誤したり、日程の縛りをどうにかできないかと苦悩したりしているそうです。また、企業などの大きな組織と連携した取り組みにも今後挑戦したいと話してくださいました。美容・健康のための堆肥、生ゴミ処理にも意欲的で、それらを近隣の農家さんに試してもらうことで地域間の横の繋がりも作っていきたいそうです。

 武藤さんは、自分の持っている資源をどう繋げていけるかということを常に考えているとおっしゃっていました。このような考えから次はどんな素晴らしいものが生まれるのでしょうか。今後もはたけんぼから目が離せません。

くにたち農園の会 プロフィール

  • 住所:

    東京都国立市谷保5119 (やぼろじ内)

  • 公式ホームページ:

    https://hatakenbo.org/

  • 電話番号:

    042-505-7200

  • メールアドレス:

    kunitachinouen@gmail.com

  • くにたちはたけんぼ 住所:

    東京都国立市谷保661

  • くにたちはたけんぼ アクセス:

    JR南武線谷保駅南口より徒歩15分。バス停「谷保天神」下車徒歩10分。

吉野 飛鳥

一橋大学経済学部所属。群馬県出身で、幼い頃から農業が身近にある生活を送っていました。東京で一人暮らしを始め、農業サークルぽてとに入ったことをきっかけに都市農業にも興味を持ち始めました。自分を野菜に例えるとネギ。

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