MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

ド根性!新規参入農家が作り出す生産者と消費者の新たな関係性(町田市・Bamboo Village Farm)

年々都市化や宅地化が進んでいる世界有数の大都市「東京」。農業を営む上でハードルが高いこの場所では、地方とは違ったアプローチで農業に関わることができる点に魅せられ農業の世界に飛び込んだ新規参入者が多数活躍しています。今回取材にご協力いただいたBambooVillageFarmを切り盛りする竹村庄平さんもその一人です。自身が生まれ育った土地でボランティアに訪れた人々と活発に交流しながら有機栽培を営んでいます。「僕のやっている取り組みは新規参入者の理想を全部詰め込んだものなんじゃないかなと思っています。」そう語る竹村さんの瞳にまだ見ぬ可能性を秘めた都市農業はどう映っているのか、未だ山林の風景を色濃く残した町田の多摩丘陵を訪れてその想いを伺ってきました。

Bamboo Village Farmの様子。この圃場ではジャガイモの収穫をしていました。

夢、叶ったので次は農業やります

竹村さんは2005年に大学を卒業後、3年間大阪のロボットメーカーに勤めていました。しかし元々海外志向が強く、海外に住んでみたいという気持ちが強かったことから、会社を辞め、フィリピンやシンガポールなど東南アジア諸国に渡航し、数年間現地で生活したそうです。念願かなって海外生活の夢を実現した竹村さんは、次に何をしようかと考えるなかで今度は社会貢献、つまり人の役立つことをしたいと思い立ち、帰国後、農業へ舵を切りました。もともと健康や病気といったテーマに興味を持っていたことから、農業の中でも慣行栽培ではなく有機栽培をやりたいと考えたそうです。このため研修先も有機栽培の技術が学べるところにこだわり、長野県の農家さんと高知県の学校で計2年間の修業を経て、2014年9月に晴れて地元の町田市にて新規参入を果たしました。

様々な道のりを経て農業にたどり着いた竹村さん、「今は特に海外に行きたいとは思いませんね。パスポートも切れてしまいましたし。」飄々とした様子でそう語ります。

一見さんお断り!ド根性デリバリー

Bamboo Village Farmは農作物の販売方法が独特で、その売り上げの半分を竹村さんの知り合いのみに限定した「個人直売」が占めています。BambooVillage Farmでは、きれいな作物だけでなく、味は変わらないにもかかわらず形が歪で通常の出荷では廃棄されてしまういわゆるB級品もすべて販売しています。「ある人にきれいな物だけ販売すると、別のある人には自ずとB級品も混ざってしまうことになります。そうするとやっぱりクレームが来るんですよね。僕はそういうのが嫌なので一見さんには販売せず、(きれいな作物もB級品も販売できる)知り合い限定ということにさせてもらっています。」また、袋詰めや野菜の洗浄等の作業も省略しているといいます。これには、竹村さんのこだわりがあります。「僕からするとなんで野菜=きれいだと思うの?ということは感じていて、本来の姿のまま届けることが食育、農育に発展していくのではないかと考えています。」Bamboo Village Farmでは、農園のある町田市から一時間圏内程度なら、宅配便を利用せず竹村さん自身の車で配達しています。遠い場所だと神奈川県の横浜市や大和市などにも赴くことがあるといいます。毎日の農作業は朝から19時~20時頃まで。その後野菜の仕分けを行ってからの配達です。配達は日によっては深夜12時頃まで及ぶこともあります。配達後にも仕事が残っていると就寝時刻は2時3時を回ることもあるそうです。ド根性な個人直売の評判は上々、1カ月の注文件数約100件という数字がそれを如実に表しています。仲介業者を介さず直接販売することにより、消費者感覚ではリーズナブルな価格を維持しつつも自身の手取りを多く確保することができています。「今は週3日程度配達に出向いていますが注文があるなら毎日やっても構いませんよ。」竹村さんは多少疲労の色を覗かせながらも穏やかにそう語ります。

収穫されたジャガイモ。少し小ぶりな品種です。記者も少しお邪魔して収穫作業に参加させていただきました!

援農ボランティアも活躍!現場からの声

Bamboo Village Farmは援農ボランティアの方々を積極的に受け入れています。1カ月のうち、人が来ず竹村さんが一人で作業している日はほんの2~3日で、残りは誰かしらボランティアの方が来ているそうです。取材当日にも、竹村さんの他に3名の方が作業に汗を流していました。消費者だけではなく生産者の視点から農業や食を見たいという思いからボランティアに訪れる管理栄養士の高田聡子さんはその一人です。「4月頃から週1日の頻度で来ています。普段は事務仕事が中心なので当初は筋肉痛と闘いながらの作業でしたが、だんだん身体が健康になっていく感覚があります。1回2回だけ来ても仕方がないので定期的に訪れたいです。」また、ⅠT系企業でのお仕事を経験した後紆余曲折を経て竹村さんと知り合ったという会田光司さんは、環境系の分野に興味があるそうです。このため例えば、石油製品であるビニールマルチを使わない農法を理想としています。竹村さんは畑にゴミが残るのが嫌でビニールマルチを使わないといいますが、会田さんはその農法を採用している理由は違えど竹村さんの考え方は自分に合っているといいます。会田さんは今後BambooVillageFarmに正社員として就職する予定だそうで、Bamboo Village Farmで働けるのはとても嬉しいと笑顔を浮かべます。このように竹村さんの農業に対するこだわりの深さに惹かれて多くの人がBamboo Village Farmにボランティアをしにやってきています。外部の人々がひっきりなしに訪れることはBamboo Village Farm以外では非常にめずらしく、極めて異色です。

援農ボランティアの方々に混じって作業に精を出す竹村さん。

Bamboo Village Farmのこだわり

前述したように竹村さんは健康や病気といった分野に興味があったことから、新規参入の際に有機栽培を選択しました。「慣行栽培だったらわざわざ僕がやる意味ないので、もしそれができなくなったらそのときは農業をやめます。」そうはっきり発言するほど有機栽培に対しての思いが強いです。有機栽培以外にも竹村さんのこだわりは随所に見受けることができます。

第一に、鶏糞など動物由来の堆肥を一切用いていないことが大きな特徴です。もの自体は動物の排泄物とわかっていても、何を食べて育った動物のものなのかその過程がわからないことが理由です。そのため米ぬかなど植物由来の肥料のみを使って栽培しています。

第二に、竹村さんはF1品種(種苗会社で品種改良された一代雑種)を一切使わず、固定種を栽培しています。ナスやオクラなどの種取りが簡単な野菜は自身で種を採取していてその割合は50%にも及ぶそうです。「F1品種は改良の過程でおしべがなかったり、本来の姿とは違ったりする場合があります。それも気になるんですよね。それと日本で育てるなら外国由来のF1品種より固定種の方が理に適っているのかなとも考えています。」

このように、Bamboo Village Farmでは有機栽培や植物性肥料の使用、固定種の栽培などにこだわりをもっていますが、決して有機栽培を看板として全面的に押し出しているわけではないといいます。「別に僕は有機栽培をBamboo Village Farmのブランド価値としてはあまり考えていないです。それよりも農場に援農ボランティアの方々が毎日のようにやってくることの方がすごいと思っています。うちの最大の特徴はやはりそこですね。でも有機栽培をやっている所に興味を持って来てくれる人もいますから、そういう面では有機栽培が 役立っているのかもしれませんね。」

Bamboo Village Farmの野菜を使った料理を近隣の福祉施設にてごちそうになりました!絶品です。個人直売の依頼をしたくなる気持ちがよくわかります。

ド根性はつらいよ、直面する課題

面白い特色があるBamboo Village Farmですが、今後の課題は山積みだといいます。竹村さんからお話を伺う中で真っ先に挙がったのが家や倉庫の問題です。竹村さんは現在実家にお住まいで、それとは別に出荷調整や農業機械保管の場所として月6万円で古民家を2棟借りているそうです。今はまだ問題なく借りられていますが、いずれ大家さんが変わった場合に継続して借りられるかどうかという点を危惧しているといいます。「今の家の持ち主は倉庫として使うことに理解をしてくださっていますが、そのお子さんが町田に帰ってきてそのままご家族と住むようになるとしたら引き続き借りられるかどうか心配しています。家の中をジロジロ覗くわけではないにせよ朝とか深夜に家の周囲で機械を作動させたりガサゴソ作業したりしていたらあんまり居心地はよくないですよね?新しい場所を探すにしても東京は家賃が高いので10万~20万程度を家賃として毎月支出することになります。そうしたら年間200万ぐらいが固定費になります。それではさすがにうちの経営は破綻してしまいます。」また、これから農場が成長していった際、収穫物が増えてより広い倉庫が必要になったり、遠方から来る人への宿泊場所として提供したりという可能性を加味すると、家賃の安さだけではなく条件も考慮しなければならなくなるため尚更ハードルが上がってしまいます。

更に大きな課題は人員の問題です。前述の通り、Bamboo Village Farmには毎日誰かしら援農ボランティアの方々が来ています。しかし作業の効率性を考えると竹村さん本人が行っ た方が早かったり、初めて来訪された方には説明をしなければいけなかったりと大変なことが多いといいます。「ボランティアの方々が来てくれて助かっている面もありますが、駅まで送迎するために現場を途中で抜けなければいけないこともあるので正直負担が全くないと言ったら嘘になります。ボランティアの方々は来てくれるから受け入れているだけで僕から積極的に募集しているわけではないです。ただ援農を通じてBamboo Village Farmのファンになってほしいという思いはあります。そう考えると1回目を受け入れないと2回目も3回目もなくなるのでそこは踏ん張っています。」有機栽培は慣行栽培に比べて収量が少ない傾向があるため、必然的に農地面積を広げないと採算が取れない側面があります。竹村さんは現在林を開墾しながら農地を獲得していて、現在は1町5反もの農地を管理しています。東京での新規参入者としては広大な部類です。このため、熟練の援農ボランティアの方々はBamboo Village Farmの代名詞であると同時になくてはならない戦力です。人を雇うことも視野には入れていますが、ボランティアの方々と仲良くできることが絶対条件だといいます。更に、初めて農業分野で働く従業員を採用する際の助成金が支給される期間は良いですが、その期間の経過後に継続して人材を雇用し続けられる体力がなく、また新しく人材を探していく自転車操業的な経営を強いられているそうです。

記者も機械でジャガイモを収穫させていただきました。扱いが難しいながらも奮闘しました!

「都市農業」は農業じゃない!東京ならではの役割

様々な課題を突き付けられながらも竹村さんは、東京の農業でこそ実現できる食育・農育といった役割に強い魅力を感じているといいます。「僕はこれから食育、農育といった観点で活動を行っていきたいです。それは援農ボランティアを受け入れているだけでは不十分です。何故ならわざわざうちに来るような人たちは各自で農家さんを探して現場に行ってしまう人たち、つまり元々食育、農育を勝手にやっていく人たちだからです。世の中はそういう人たちばかりではないので、色んな人々にインパクトを与えられるようになりたいです。」竹村さんは畑だけでなく屋内でのPRも重要だと考えており、大学の講演などでの教育活動にも力を入れています。

竹村さんをそういった活動へと突き動かすようになったのは、東京の農業が北海道など地方の農業とは根本的に異なると感じたことにあるといいます。「東京の農業は地方の農業の規模や生産性には遠く及びません。勝てない分野で勝負するのは非常にナンセンスです。だからこそ東京でしかできないようなことをやりたいです。」竹村さんは熱い調子でそう語ります。Bamboo Village Farmでは畑をコンサート会場として開放するなどして、生産以外のアプローチからも農業に親しみを持ってもらえるように注力しています。このように竹村さんは「都市農業」を、食料生産を主眼に置いた一般的に想像される「農業」とは別カテゴリとして捉えています。

Bamboo Village Farmが生み出す、都市の生産者と消費者の新たな関係性

新聞などのメディアで度々取り沙汰されているように、コロナウイルス禍のもと、農業の価値が見直されています。本来農業は人間にとって本質的なものです。しかし、現代を生きる人々は立場を問わず農業を軽視、あるいは表面的にしか見えていない部分が少なからずあるのではないでしょうか。一方で農業に興味のある人々に対して広く門戸を開いている農家さんもまた少数派です。その中で、個人直売、食育、農育といったように消費者と生産者の乖離を埋める取り組みを数々行うド根性ファーマーと、日々の生活の会間を縫ってまで現場に馳せ参じるド根性ボランティアという関係性こそ、都市農業の目指しうる一つの在り方なのではないでしょうか。竹村さんを始め新規就農で農業界に飛び込んでくる人々は様々な可能性を秘めたダイヤの原石のような存在です。そんな人たちと農業が今もあなたのすぐ近くで力強く輝いています。現にBamboo Village Farmは竹村さんがかつて通っていた中学校の学区内に全農地があり、その中で生産が完結しているそうです。そう考えると心強く感じると同時に、東京の農業にはたくさんの魅力が詰まっているということをひしひしと感じさせられます。

援農ボランティアの方々と談笑する竹村さんの様子。今後のBamboo Village Farmの活躍と飛躍から目が離せません!

Bamboo Village Farm プロフィール

  • 公式ホームページ:

    https://ameblo.jp/keke0323/

  • アクセス:

    JR横浜線矢部駅、小田急多摩線唐木田駅より車で10分

  • 生産品目:

    トマト、ナス、ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、オクラなど約50品目

小林 子龍

東京農業大学農学部動物科学科所属。東京都出身。都内の農業系高校に通っていたことが農業に興味を持ったきっかけ。大学以外のコミュニティでも活動して視野を広げたいと考えぽてともっとに加わる。東京という畜産経営のハードルが高い環境下でどのように経営をしているのかを吸収し、発信していくことが目標。

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