MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

となりのネイバーズファーム~都市農業と地域のつながり~(日野市・ネイバーズファーム)

 今から約半年前の2019年春、多摩動物公園からすぐ近くの高幡不動駅から徒歩10分の距離にある閑静な住宅街の中で、東京大学出身の1人の女性が新規参入で農業(野菜栽培)を始めました。彼女はどのような思いを抱いて農業の世界に足を踏み入れたのでしょうか、どんな農業を目指しているのでしょうか。2反という農地の中に東京×農業×高学歴×女性×新規参入というキーワードが詰め込まれたネイバーズファーム、それを1人で切り盛りされている川名桂(かわなけい)さんにお話を伺いました。

多摩モノレール。ネイバーズファーム敷地のすぐ近くを通過しています。

ネイバーズファーム誕生秘話

 川名さんは、自分自身に何か特別な技術をつけることができ、人間として本質的なものが農業だと考え東京大学農学部に進学、大学を卒業後、野菜の生産から流通、販売を行う会社に新卒で就職しました。そして福井県に生産農場を立ち上げる仕事に携わりました。そこでの経験が東京日野市で農業を始めることにつながっているといいます。

 立ち上げた農場は全国屈指の大きさでしたが、川名さんはその規模の大きさと、福井県という消費者があまり多くない土地で農業をやること、誰が食べているかわからないという状況が、慣れない雪国での暮らしと相まって肌に合わないと感じたといいます。そして小規模でも消費者と距離が近く、生産から販売まで一貫して関われるような農業をやってみたいと思い描くようになりました。そんな中、川名さんは東京でも農業を始められるという情報を入手、新規参入準備の道へと舵を切りました。そして今年の3月、市長をはじめとする多くの人々に祝福されながら、日野市の生産緑地第1号としてネイバーズファームは産声を上げました。

 現在は、自身の畑の管理だけでなく、清瀬市の関ファームさんにて週3日程度栽培研修をしながら生計を立てつつ、ネイバーズファームをよくするために勉強に努めています。

 栽培している作物は、ジャガイモ、コマツナ、オクラ、ダイコン、ハクサイ等関ファームさんで栽培を学んだ野菜を中心に、その他にもナス、ルッコラ、ラディッシュ、ゴーヤ、キュウリ、モロヘイヤ、エダマメ、カブなどを生産しています。

エダマメ
オクラ

「ネイバーズ」という言葉に込められた思い

 ネイバーズファーム(Neighbor‘s farm)の『Neighbor‘s』という言葉は隣人、お隣さんという意味です。川名さんは、街中で農業を営むことによって、地域の人と繋がり、住みやすく豊かな町を作っていきたいといいます。そんな願いを込めて農業をされているおかげか川名さんとネイバーズファームに対する周辺住民からの評判は好意的です。「またマンションが建つと思っていたけど、緑豊かな場所が地域に残ってよかった」というお言葉をよくかけていただけるそうです。他にも、高幡不動駅周辺の居酒屋や保育園ではネイバーズファームで育てられた野菜を使った料理がお客さんや園児たちに喜ばれています。前述した関ファームさんをはじめ、近隣農家さんとも交流があり、日野市南平のベテラン農家さんから資材を援助してもらったこともあるそうです。また、お身内から川名さんが農業をやることに対する反対はなく、むしろ草取りなどがご家族のたまの楽しみになっているそうです。このように、ネイバーズファームは、近隣に愛される農業を実現して、地域とは良い付き合いが出来ています。川名さんは嬉しそうにそう語りました。

オリジナルデザインの軽トラ。もちろん安全運転です。

ハウスでトマトを作りたい!

 名実共にご近所さんと良好な関係を築くことができているネイバーズファームですが、当然ながら何もかもが順風満帆とはいかないようです。現時点で川名さんの頭を悩ませているものの1つは仲間がいないこと。今後長いあいだ農業をつづけるに当たって、想いに共感し、一緒に事業を成長させていける人を探しているといいます。また、雇用することも考えると、もう1つの悩みの種である露地栽培2反という条件では圧倒的に栽培面積が足りず、農地の拡大が難しい状況下でいかに売り上げを上げていくかが課題となっています。そのため、ビニールハウスを建設して効率良く生産することが急務だそうです。また、ビニールハウスを建設した暁にはトマトの栽培にチャレンジしたいとのこと。「コマツナなどの葉物に比べてトマトは栽培難易度が高くて、水、肥料にとても気を使います。そういうところがコントロールしがいがあると感じています。」と川名さんは語ります。手のかかる子ほど可愛いということでしょうか、デメリットや手間など普通なら敬遠するものを自身のモチベーションに変換できるところに川名さんの農業に対する情熱を感じました。

ネイバーズファームのロゴ。旗は強風で裏返ってしまっています…

東大卒農家から観た農業×若者

 最近、新聞やwebメディアを中心に、学生を含めた10~20代など農業に興味のある若者の存在が話題になることが増えてきました。そのことが農業に与える影響や期待していることについて尋ねてみました。「農業に対する垣根が下がって、たくさんの人に興味を持ってもらえるようになったのはとても良いことだと思います。ただ、農業に興味はあってもその先がなく、当事者じゃなく1歩外から農業を見ているという印象を持ちます。農業じゃなくてもいいから自分の世界を探して、まずは何かの当事者になってみてほしいですね。」川名さんはそう語ります。

 確かに、農業に興味を持ち、畑などの現場に出向いたりといった話はよく聞きますし、私自身もその一人ですが、実際に当事者となって農業に関わる人間はどれくらいいるでしょうか。その行動力と意思でネイバーズファームを立ち上げた人物だからこそ説得力が強いです。自分自身を振り返って、私は何かの当事者になれるのか、なるためにはどうすればいいのか。深く考えさせられる取材となりました。

我々の訪問後、直売所が完成しました。ぜひ買いに来てくださいね!

ネイバーズファーム プロフィール

  • 住所:

    東京都日野市新井870

  • アクセス:

    京王線、多摩モノレール 高幡不動駅から徒歩10分

  • 公式ホームページ:

    https://www.neighborsfarm.com

小林 子龍

東京農業大学農学部動物科学科所属。東京都出身。都内の農業系高校に通っていたことが農業に興味を持ったきっかけ。大学以外のコミュニティでも活動して視野を広げたいと考えぽてともっとに加わる。東京という畜産経営のハードルが高い環境下でどのように経営をしているのかを吸収し、発信していくことが目標。

レポートを見る

他のレポートRelated Report

出演依頼・お問い合わせはこちら