MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

エンジニアから野菜農家へ(調布市・伊藤彰一さん)

 京王線仙川駅から徒歩5分ほど歩くと住宅街の一角に広大な畑が見えてきます。そこで農業を営む伊藤さんはエンジニアから野菜農家になった異例の経歴をお持ちの農家さんです。また、エンジニアの経験を活かしてAgrihub(アグリハブ)という農作業管理アプリも作っています。今回はそんなエンジニアから野菜農家になった伊藤さんにお話を伺いました。

住宅街に広がる広大な畑

野菜農家への転身

 伊藤さんは大学で電子工学を専攻し、卒業後はベンチャー企業でSEとして働き、ウェブやアプリ開発等を行なってきました。7年間の社会人経験の後に、代々続く家業の農業を継ぐ形で就農しました。「いつかは農業を継ごうと思っていたが、農業以外でも働けるようになっておきたかった」と伊藤さんは話していました。

 エンジニア時代とは、生活のリズムがかなり変わったようです。自由な社風だったため、不規則な生活になりがちでしたが、農家になってからは規則正しい生活を送るようになったといいます。就農してから暫くは、日々変化し最新の技術を習得する必要があったIT業界と比べると、農業の世界は自然が相手であるため、変化の速度が遅く感じていたそうです。

生い茂ったジャガイモ

伊藤さんの畑

 畑は約1ヘクタールの広さで、畑の少ない仙川では比較的大きい方です。主に調布市内の学校給食や近隣スーパーの直売コーナー、近所のレストランに直接野菜を出荷しているそうです。

 学校給食は、主にジャガイモ、キャベツやブロッコリーを出荷しています。調布市内の小学校では、校内の給食室で給食を作る自校調理方式を導入しています。時期によっては毎日、学校に野菜を配達しているそうです。

 スーパーの出荷先である、「クイーンズ伊勢丹」や「いなげや」の一角には、地元の直売コーナーが設置してあり、いつでも自由に地元の農家さんが野菜を出荷できます。採れたての野菜を伊藤さん自ら出荷しています。直売所で農業仲間と話すことも多いそうです。

 また、就農直後から、「採れたて野菜の味を知って欲しい」という思いから、体験型の農業イベントにも力を入れています。「伊藤農園asobibatake」と名づけてイベントを企画し、枝豆・ミニトマト・とうもろこし等の収穫体験を開催しています。

 お子様連れの家族の参加が多く、土遊びの機会が珍しい東京の子どもたちにとっては、畑作業は新鮮で貴重な経験になっているそうです。今後はもっと大人の人達にもイベントに参加して欲しいと伊藤さんは言います。

 7月の週末にはトマト狩りが開催されるなど、今後も随時イベントが開催されますので、ぜひFacebookをチェックしてみてください

体験農園で種まきをしたトウモロコシ

作業管理アプリAgrihub(アグリハブ)

 伊藤さんは、前職の経験を生かし、Agrihub(以下アグリハブ)というスマートフォン向けのアプリ開発を行なっています。アグリハブの開発に乗り出したきっかけは、農家さんが日々の農作業を記録するのに適したアプリが少なく、伊藤さんが使いたいと思うアプリが無かったからだそうです。農薬の管理や作業記録、売上の管理ができます。シンプルに作られていて、利用している農家さんからも評判です。

 エンジニアだった伊藤さんにとっては、アプリを作ることよりも、使いやすく分かりやすいデザインを考えることの方が苦労したそうです。そこで奥様が、アプリのデザインを担当するようになり、現在のアプリが完成しました。

 農薬のルールは法律で厳しく決められており、作物や害虫毎に、使用できる農薬や撒く回数などが、細かく決められています。また、農薬の情報は頻繁に更新されるため、それらを管理することはとても大変な作業です。それにも関わらず、現状では防除指針と呼ばれる辞書のような冊子を引いて調べるのが一般的です。アグリハブを使うと、そういった農薬や作業等の管理がとても簡単にできるようになります。伊藤さんは「農薬を使うことが危険なのでは無く、間違った使い方をしてしまうことが危険」だと言います。このアグリハブが農薬の正しい使用に繋がることを願っています。

 伊藤さんは、近年の農業のIT化は、農業の現場が見えていないのではないかと疑問を呈しています。アグリハブは、農業の現場を知っている伊藤さんだから作れたのではでしょうか。アグリハブのプレビューはこちらから。

農薬検索の画面。害虫や用途など様々な要素で絞り込んで検索することができる。
農業日誌の画面。いつ何をしたのか品目ごとに管理することができる。
農薬検索結果の画面

農薬の散布管理の画面。品目ごとに管理することができる。

これからの展望

 伊藤さんは東京でしかできない農業のやり方を考えていきたいといいます。東京の子どもたちにとって、畑と触れ合うことは大変貴重な経験であるため、今後さらに消費者が畑と触れ合える機会を増やしていきたいそうです。

 また、アグリハブにもさらに細かい機能を追加して、農家さんにとってより良いアプリにしていきたいと意気込んでいます。将来はIoTの活用も検討していきたいそうです。

 前職の経験を農業に活かし、新しいことに挑戦している伊藤彰一さんから、今後も目が離せません。

伊藤農園 プロフィール

吉野 飛鳥

一橋大学経済学部所属。群馬県出身で、幼い頃から農業が身近にある生活を送っていました。東京で一人暮らしを始め、農業サークルぽてとに入ったことをきっかけに都市農業にも興味を持ち始めました。自分を野菜に例えるとネギ。

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