MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

次世代型農業「アーバンファーミング」の可能性 (「東京農サロン」イベントレポート)

東京農村・東京農サロンとは

東京では今、農業を新しい方法で行ったり農業に対する見方を変えたりしようとしている方々が官民含めてたくさんいます。このような中、農家及び食農ベンチャーの繋がりを促進するイベント「東京農サロン」が2018年12月19日に開催されました。会場となったのは、東京都港区赤坂にある東京農業を発信するビル「東京農村」です。このビルは一階から五階まであります。1階から3階は飲食店になっており、1階は東京産の野菜などを用いたビストロ「Tokyo Bistoro SCOP」、2階は東京・神田の自家製どぶろくや産地直送の新鮮な海鮮料理を楽しめる居酒屋「酒肴ほたる」、3階は世界中のワインを集めたバー「nomuno」となっています。4階と5階はシェアスペースとして利用されており、4階は各種設備を備え、起業や営業の相談もしているシェアオフィス「Root office」、5階は料理教室などのテストキッチンとして活用できる「Root kitchen&室内菜園」があります。今回で6回目となる東京農サロンは4階と5階で行われ、テーマは「アーバンファーミング」でした。冒頭の自己紹介ののち、アーバンファーミングに関して仕事をしている二名の方がプレゼンテーションを行いました。

東京農サロンは1ヶ月に1回開催されている。

アーバンファーマーズクラブ~都市に農的な暮らしを~

最初に発表したのは、渋谷を拠点に都市での農的暮らしを促進する団体「アーバンファーマーズクラブ」の代表理事である小倉崇さんです。小倉さんは元々出版社で働いていたのですが、東日本大震災が発生した直後に都内で食料や水を全く購入することが出来なかったことに危機感を覚えて、以前から興味を持っていた農的な活動を本格的に始めました。そんな活動の中で出会ったのが、相模原の有機農家である油井敬史さんでした。油井さんは2014年に新規就農して以来、農薬や化学肥料、動物性資材を一切使わない農業を行っていたそうですが、仕事として成り立たせることは非常に難しかったそうです。そこで小倉さんは、油井さんの経済的自立を目的とした農業ユニット「weekend farmers」を結成しました。ここでは、渋谷の道玄坂にあるライブハウスの屋上で畑を作り有機野菜を育て、二年以上もの間にわたり多数のイベントを開催しました。イベントは毎回200人以上の方が参加するほど好評で、当初の目的だった油井さんの経済的自立も達成されました。

この活動のなかで気づいたのは、都会で暮らしている人達が無意識下で農的な暮らしをしたいと考えているのではないか、ということでした。参加してくれたお客さん達が、ライブハウスの屋上だけでなく、自宅でも有機野菜を育てるようになったからです。

このような経験から、小倉さんは2018年4月に「アーバン・ファーマーズ・クラブ(UFC)」を立ち上げました。UFCでは最初のプロジェクトとして、「SHIBUYA 2020 URBAN FARMERS PROJECT」を始めました。これは、ロンドンで2012年のオリンピック開催を契機に2012か所の市民農園を開設した事例を踏まえて、、渋谷区でも2020年の東京オリンピックまでに2020人の市民農家と2020ヶ所の市民農園を開設することを目標としたものです。将来を見据えたとても前向きな取り組みで、次世代型農業の一つの素晴らしい具体例になりそうですね。

UFCの活動の4つの軸。

PLANTIO~都市農業×AI, IoT~

二人目の発表はプランティオ株式会社のCEO芹沢考悦さんです。プランティオの大きな目標の一つは、AIやIoTを用いて消費者目線から農業を徹底的に「見える化」することで、コミュニティファームをオフィスビルや商業施設の屋上等に形成していくことです。具体的には、農家向けではなく趣味で園芸を楽しむ一般の方々に向けたAIを世界で初めて開発しました。コミュニティファームで使われる「コネクテッドプランター」各種センサーが搭載されているため、育てている野菜の生育状況及びCO₂等を感知しAIで分析することによって、スマートフォンの専用アプリ上で栽培情報がわかりやすく表示される仕組みです。そのような仕組みになっているので、誰でも簡単に野菜を育てることができます。さらに、コミュニティファームで収穫した野菜を飲食店に持ち込んで料理として提供してもらうといった連携事業も始めています。

プランティオ株式会社の芹沢さん。

市民が皆で農業をする時代へ

それぞれのやり方で都会で農を楽しむ活動を進めている小倉さんと芹沢さんですが共通点として「皆で野菜を育てる」という考え方があります。東京を始めとする都市部に住んでいる人々がオフィスや自宅で野菜を育てることで、人間と農業の関係性をかつてのように身近なものにすることができるでしょう。また、AIやIoTを用いた新しい方法で誰もが美味しい野菜を育てることが可能になるため、普段食べている野菜がどのようにして作られているのか直接体験することが出来ます。それにより、食に関する不安要素が多くなってきている現代において、人々の食に対する意識改善に大きく貢献すると思います。他にも、地方で生産された野菜を都市部に輸送する手間が省けることによるCO₂等の温室効果削減といった環境面でのメリットも多々あります。これからは都市農業及びそこから派生した新たな方法での農業が私たちの生活をより良いものにしてくれるでしょう。

新しい農業の姿。

東京農村 プロフィール

小辻 龍郎

アグリドットトーキョー編集部。元々農業とはあまり縁がない生活をしていました。農業や食、自然の分野で世の中をより良くしていきたいと思い、大学に入学してから農業サークルなど農業に関する様々な活動に取り組んでいます。都市農業を通じて農業の現場や課題が身に染みて実感中。最近ハマった野菜はトウモロコシ。

レポートを見る

他のレポートRelated Report

出演依頼・お問い合わせはこちら