MARUGOTO REPORT 農業まるごとレポート

クラフトファーマーの挑戦 (西東京市・レイモンドファーム)

クラフトファーマーとは、自分の技術と仕事に誇りを持って美しく高品質な製品(=野菜)を作る農家のことを指します。今回は、そのようなこだわりを持ったクラフトファーマー、レイモンドファームの岩崎亮介さんにインタビューしてきました。このファームの自慢は、なんといっても立派な野菜たち。大きく、白が輝くカブは、そのままでも美味しく食べられるほどでした。

岩崎さんを支える年間100名のボランティア

レイモンドファームは東京都西東京市にある、栽培面積が8反ほどの農園です。岩崎さんは農家として19代目にあたります。レイモンドファームの名前の由来は、岩崎さんの学生時代のニックネームからきているそうです。ファームは現在、基本的には岩崎さん一人が働いています。しかし、知り合いや、大学の後輩など年間100名のボランティアが来てくれているそうです。100人ものボランティアが来ているというと驚かれる方も多いかもしれませんが、これには岩崎さんの経歴や人柄が関係しています。岩崎さんは大学では社会学部で学びながら、「Team LAP」・「学生団体いろり」・学内の農業サークルと3つの農業系学生団体に所属していました。卒業後は実家の農業をすぐに継ぐことはせず、福祉関係の仕事をしていたそうです。

レイモンドファームの畑。この地域では珍しく一続きになっています。

農業を始めたのは2016年。実家近くに引っ越してきたのを機に実家の畑で趣味の範囲で野菜の栽培を始めたことがきっかけでした。その後、農協の直売所で野菜を販売するようになり、2017年5月からは専業農家として野菜の栽培を始め、現在に至ります。学生時代以来、多くの人々と関わってきた交友関係と、「野菜のことはあまり書かない」など、他の農家とは少し違う岩崎さんらしいSNS発信によって、多くの人がレイモンドファームのことを知り、ボランティアとして訪れているのです。

作っているのは「確実に売れる」「クラフトベジタブル」

冒頭で紹介したとおり、岩崎さんの作る野菜はスーパーなどの店頭に並ぶ野菜よりも大きく、形も綺麗です。これには、流行り廃りのない高品質なものが好きという岩崎さんのこだわりが反映されています。岩崎さんはこのようにこだわりを持った野菜を「クラフトベジタブル」と呼び、栽培しています。筆者も実際に畑でカブを収穫する様子を見ましたが、今までに見たことのないカブの大きさに驚きました。岩崎さんのおすすめのカブの食べ方は、浅漬け。このファームのカブで作れば、食べ応えのある浅漬けになりそうです。

専用の機械で、カブを洗っているところ。

また野菜を栽培する上では、確実に売れる野菜をつくること、そして安定して沢山作ることを大切にしています。岩崎さんご自身がファームを経営する上でまずは「お金に執着すること」を大切にしているとおっしゃる通り、専業農家として野菜を売るのであれば、確実に売れることが重要となるのです。レイモンドファームでは、基本的に品目ごとの売り上げに基準を設定して栽培するかを決めているそうです。今の時代、農家が作りたいものを作って売るのでは利益は出ません。消費者はいま何を求めているのか、これを常に考え、作っていくことが今の農業には欠かせません。

栽培品目の「選択と集中」

レイモンドファームの特徴である「クラフトベジタブル」と「確実に売れる野菜を作ること」という2つを実現するためには、選択と集中が必要になってきます。レイモンドファームでは当初は1年間で約30品目の野菜を栽培していましたものの、効率的に栽培ができ確実に売れる野菜にシフトした結果、現在は約10品目に絞っているそうです。今シーズンはカブ・ホウレンソウ・ニンジンの3種を中心にして栽培しています。野菜の品目は少なくても、1つの野菜で様々な品種を栽培することで、長期出荷を可能にしています。例えばカブについては品種を変えながらほぼ周年(1年間)で栽培することができているそうです。

出荷を待っているにんじん。

また、栽培した野菜の出荷先も、より安定的に出荷できる方へシフトし、農協の直売所、畑から車で1分のスーパー、今月からは近所の小学校給食へ出荷しています。都市農業では多くの生産者が直売所を中心とした出荷形態を採っていますが、岩崎さんは直売所では価格が優先されてしまい差別化が図りにくいと考えているため、むしろ出荷比率を減らしているそうです。

専業農家になって1年半、挑戦の日々が続いています。

転機を迎えるレイモンドファーム

来年にもまた、大きな挑戦がやってきます。畑を横断する道路が出来るそうです。19代続く農家にとって、先祖代々受け継いだ畑が道路になってしまうのは心苦しい点もあるかもしれません。しかし岩崎さんは、新しいハウスを建てることによって、より効果的に野菜が栽培できると前向きに捉えています。新しいハウスができれば、機械化が進み、岩崎さんの日々のお仕事についても効率化への大きな前進となります。岩崎さんは趣味のレコードもできるようになればな、と笑顔でお話しされていました。新ハウスでの栽培が成功することを願いたいです。

私たちの前で、にんじんを収穫していただきました。

順風満帆ではありませんが、「自分の技術と仕事に誇りを持って美しく高品質な野菜を作る」という軸をもっているため、岩崎さんの野菜作りはブレありません。岩崎さんらしい、大きく食べ応えのある野菜を一目でも見てみたい、食べてみたいという方は、ぜひレイモンドファームの野菜を買ってみてください。きっと、その想いの伝わる野菜に出会えるでしょう。

茂っているのは大根の葉っぱ。今年は天気のために育ちが早くなってしまったそう。
真っ白なカブ。大きさや形にもこだわりがあります。
私たちもその場でいただいてみました。みずみずしくて甘みもあり美味しかったです。
レイモンドファームのロゴ。岩崎さんの顔がモチーフですね。

レイモンドファーム プロフィール

出口 綾乃

アグリドットトーキョー編集部。東京農業大学4年。農業経営専攻。大学入学を機に農業と関わるようになりました。また1年次から農業サークルぽてとに参加しており、農業と関わりのある生活を送っています。サークル活動を通し、野菜作りや、農業関係者との繋がりがてでき、農業の面白さに気づきました。農業を通して仲間とゆるく楽しい時間を過ごせることが農業の良さだと感じています。

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